2023年11月24日松波宏明博士セミナー

米国Duke大学教授の松波宏明先生をお迎えしてセミナーを開催いたします。松波博士は京都大学(竹市研)で学位を取得後、Linda B. Buck博士(2004年ノーベル賞)のもとでポスドクをしたのち、Duke大学で独立されました。その後は、一貫して化学感覚(嗅覚および味覚)研究のトップランナーとしてご活躍です。特に、嗅覚受容体の機能解析を通して、ヒトの嗅覚の分子基盤解明を目指した研究でマイルストンとなるお仕事をされてきています。最近は、CryoEMを用いることで初めて嗅覚受容体の立体構造解析にも成功されました。本セミナーでは、嗅覚受容体による多様な匂い分子の識別機構についてご講演いただきます。本セミナーはハイブリッド形式で日本語にて開催します。

演者: 松波 宏明 博士
所属: Department of Molecular Genetics and Microbiology, Duke University Medical Center
日時: 2023年11月24日(金)17:00-18:00
場所: 医学部基礎研究A棟1階 第2講義室(生協向かい)
Zoom参加を希望される方は下記より登録をお願いします。

 

講演タイトル:
匂い受容の原子レベルでの理解に向けて

 

要旨:
嗅覚系は、ゲノムにコードされた数百の異なる匂い受容体を活性化することで、多様な匂い分子を検出し、識別する能力を持っています。しかし、特定の匂いがどのようにして匂い受容体によって認識されるのかについては、まだ十分には解明されていません。
嗅覚における最も重要な課題の一つは、匂い分子が原子レベルでどのように匂い受容体と結合するのかを理解することです。私たちは、クライオ電子顕微鏡、コンピューターシミュレーション、部位特異的変異導入技術を組み合わせて、活性化状態の匂い分子がどのように匂い受容体に結合して活性化させているのかを解析しています。匂い分子は、匂い受容体のリガンド結合部位内でイオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合を形成し、これによって受容体を活性状態に安定化させる重要な相互作用をしていおり、その結果匂い受容体とGタンパクとの共役がなされるということがわかりました。。興味深いことに、結合部位内の特定のアミノ酸残基に変異を導入すると、その変異の位置に応じて匂い分子の認識範囲が変化しました。これは、匂い分子の選択性が匂い分子とその受容体との間の密接な相互作用によって決定されることを示しています。
これらの研究成果は、さまざまな匂いに反応する受容体に関する基礎的な知識を提供し、匂いのコーディングに関するさらなる探求の基盤を築いています。

References:
Billesbølle, et al. “Structural basis of odorant recognition by a human odorant receptor.” Nature 615: 742–49 (2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-05798-y.
Yoshikawa, et al. “An odorant receptor that senses four classes of musk compounds.” Curr Biol 32: 5172-5179.e5 (2022). https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.10.038.
Zhu, et al. “Decoding the olfactory map through targeted transcriptomics links murine olfactory receptors to glomeruli.” Nat Commun 13: 5137 (2022). https://doi.org/10.1038/s41467-022-32267-3.
Kida et al., “Vapor detection and discrimination with a panel of odorant receptors.” Nat Commun 9: 4556 (2018). https://doi.org/10.1038/s41467-018-06806-w.
Jiang et al., “Molecular profiling of activated olfactory neurons identifies odorant receptors for odors in vivo.” Nat Neurosci 18: 1446-1454 (2015). https://www.nature.com/articles/nn.4104
Mainland et al., “The missense of smell: functional variability in the human odorant receptor repertoire.” Nat Neurosci 17: 114-120 (2014). https://www.nature.com/articles/nn.3598

 

世話人: 医学研究院・疾患情報研究分野 今井 猛
#第20回疾患情報研究分野主催(第24回今井研主催)公開セミナー
———————————–
11/27追記
セミナーを開催しました。大変excitingなご講演で、学生さんも大変刺激を受けていました。