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平成19年の第79回遺伝学会BP賞を受賞

2009年09月30日

アルキル化損傷細胞にアポトーシスを誘導する新規遺伝子の同定


○日高真純1、*、小森加代子2、高木康光3、中津可道1、續輝久1、関口睦夫3 (1九州大学・院医・基礎放射線医学、2徳島文理大学・健康科学研、3福岡歯科大学・学術フロンティア)*日高真純の現在の所属:福岡歯科大学・細胞分子生物学講座

写真:左から 續、日高、中津、小森、関口、高木

DNAのアルキル化修飾によって生じるO6-メチルグアニン(O6-meG)はDNA複製を阻害しない小さな傷で、複製に際してシトシン以外にチミンと対合するために、2回のDNA複製反応を経ることによりG:CからA:Tへの突然変異を引き起こす(図1)。


図1.アポトーシス誘導による遺伝子の安定化機構変異原性の修飾塩基O6-メチルグアニンにより誘導されるDNA修復とアポトーシス反応を示す。

 このような突然変異を抑制するために、生物は少なくとも2つの防御策を持っている。一つがO6-メチルグアニンメチルトランスフェラーゼ(MGMT)によるDNA修復反応で、二つめがミスマッチ修復(MMR)タンパク質に依存したアポトーシス反応である。これらの反応に異常を持つMgmtとMlh1(MMR遺伝子の一つ)の二重欠損マウスではアルキル化剤投与後に多くのがんが生じたことから、このアポトーシスが、変異原性のO6-meGをDNA上にもつ細胞を排除することにより、発がん抑制において重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。そこで我々はこのアポトーシス機構の解明をめざし、アポトーシス誘導経路で機能するタンパク質の網羅的な同定を遺伝学的手法により行うことにした。 修復酵素MGMTを欠損する細胞はアルキル化剤に対して高い感受性を示す。ところが、MMRタンパク質のようにアポトーシス誘導で機能するタンパク質を同時に欠損した細胞は、アポトーシスを誘導できなくなりアルキル化剤に対して抵抗性を獲得する。そこで我々は、この表現系をアポトーシス誘導欠損細胞のスクリーニング法に利用した。レトロウイルスベクターを用いた遺伝子トラップ法により、アルキル化剤感受性を示すMgmt欠損細胞に由来する遺伝子破壊株ライブラリーを構築し、その中からアルキル化剤に抵抗性を示す突然変異株を多数分離した(図2)。


図2.アポトーシス関連遺伝子欠損細胞株のスクリーニングの概要プロモーター領域を欠いた薬剤耐性遺伝子(HygR)をもつレトロウイルスベクターをMgmt欠損細胞に感染させ、一次スクリーニングでハイグロマイシン耐性株を選択し遺伝子破壊株ライブラリーを構築する。その中からさらに、二次スクリーニングとして、単純アルキル化剤であるメチルニトロソウレア(MNU)処理に対して耐性を獲得した株を選択する。これらはアポトーシス誘導欠損細胞株である可能性が強く、その破壊遺伝子はPCR法にて容易に同定することが出来る。

 その中のひとつに着目し解析を進めたところ、このアルキル化剤抵抗性細胞は、アポトーシス誘導の指標の一つであるカスパーゼ3活性の上昇もコントロール細胞に比べて低下していることがわかった。PCR法によりその破壊遺伝子を同定したところ、それは機能未知な新規遺伝子Y3(仮称)であった。そして、Y3遺伝子に特異的なsiRNAを用いた遺伝子ノックダウン細胞もアルキル化剤に対して抵抗性になることから、この因子が確かにアポトーシス誘導において重要な機能を担っていることが確認された。さらに、この変異株はアルキル化剤処理によるゲノムDNAの突然変異頻度がコントロール細胞に比べて上昇することから、Y3遺伝子がアポトーシス誘導を介した遺伝子安定化機構において重要な役割を担っていることが示唆された。 今後は、Y3タンパク質の生化学的な解析を行うとともに、その他にも単離したアポトーシス誘導欠損細胞の解析も行い、アポトーシス誘導の分子機構の全体像を明らかにしたいと考えている。また、Y3遺伝子のノックアウトマウスの作出も行い、Y3タンパク質の個体レベルでの生理機能、特にがん化抑制における機能に着目した研究も展開したい。

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