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大野みずき助教が日本遺伝学会第83回大会でBP賞(ベストプレゼンテーション)を受賞しました。

2011年09月21日

8-oxoguanineはDNA鎖切断を誘発することで減数分裂期の相同染色体組換え頻度を上昇させる

 大野みずき1、作見邦彦2、古市正人3、中西恵美1、續輝久1、中別府雄作2
(1九州大学・院医・基礎放射線医学、2九州大学・生医研・脳機能制御学、3九州大学・RIセンター)

  私は「ほ乳類ゲノムの多様性を生み出す原動力は何か?」を理解することを目指して、特に酸化損傷塩基の寄与に注目して研究を展開しています。ほ乳類では配偶子形成過程での相同染色体組換えやその後の受精により、親とは異なった組み合わせの塩基配列を生み出し、積極的に多様性を確保しています。減数分裂期の相同染色体組換えは特定の酵素が能動的にDNA 二重鎖切断を導入することで開始されますが、DNA損傷剤によって誘発された二重鎖切断からでも組換え反応が誘導されることが報告されています(1)。これまでに私たちはヒトゲノム中にはグアニンの酸化体である8-oxoguanine (8-oxoG)が局在する領域があり、その領域では組換え頻度が高いことを見出していました(2) 。そこで8-oxoG が減数分裂期の相同染色体組換え頻度に影響するか否かを検証する為に、Ogg1*、Mth1**およびその両方を欠損したd-KOの欠損マウスを用いて減数分裂期の組換え頻度と生殖細胞中のDNA 鎖切断の頻度を解析しました。遺伝子欠損マウス3系統全てで野生型マウスに比較してパキテン期の細胞における組換えスポット(MLH1 fociを指標)の数と、第一減数分裂期の染色体標本におけるキアズマの数が有意に上昇していることが確認されました(図1)。また、減数分裂前期の細胞でDNA二重鎖切断の頻度が遺伝子欠損マウスで上昇しており(図2)、γH2AX、Rad51の免疫染色性の上昇も確認されました。さらに野生型マウスへの8-oxo-deoxyguanosineの投与は担体やdeoxyguanosineを投与した場合に比較して有意にキアズマ頻度を上昇させることを明らかにしました。これらの結果よりゲノム中あるいはヌクレオチドプール中に存在する8-oxoG量の増加は生殖細胞中でDNA鎖切断を誘発し、相同染色体組換え頻度に影響を及ぼしていると考えられました。 活性酸素は放射線、化学物質、大気中の酸素濃度などの地球上の環境因子や、細菌感染、疾病などの生物学的環境の変動に伴って細胞内で発生し核酸を酸化します。従って酸化損傷核酸は全ての生物に共通の遺伝的変異のリスクファクターであり、ゲノム多様性を誘発する主要な原因となっていると考えています。

 (1) Romanienko PJ, Camerini-Otero RD. Mol Cell. 5:975-87, 2000 (2) Ohno M. et al., Genome Res. 5:567-75, 2006

 *Ogg1: DNA中のCに対合した8-oxoGを切り出す活性を持つ酵素の遺伝子 **Mth1:8-oxo-dGTPを8-oxo-dGMP に分解する活性を持つ酵素の遺伝子


図1. 減数分裂期の相同染色体組換え頻度

生殖可能週令に達したオスマウスの精巣より分離した生殖細胞を用いて相同染色体組換え頻度を解析した. A)パキテン期の核における組換えスポットの数(MLH1 foci)をカウントし、結果の平均値とSDを示している(mean ± SD, 30 cells / sample、n=4、** p < 0.001, *** p < 0.0001)。B)第一減数分裂の染色体標本におけるキアズマの数をカウントした(mean ± SD, n=33, *** p < 0.001). C)第一減数分裂の染色体. 組換え点がキアズマとして観察される.


図2. 第一減数分裂前期の細胞におけるDNA鎖切断

生殖可能週令に達したオスマウスの精巣より分離した生殖細胞を用いてDNA鎖切断を解析した. A)DNAの切断箇所の3’-OH末端を蛍光色素ラベルしたヌクレオチドを酵素学的に付加することで可視可し(TUNEL、緑色 )、核DNAをDAPIで染色した(青色). B)TUNELシグナルの蛍光強度を画像上で定量的に解析した(mean ± SD, n=200, *** p< 0.0001). C)コメットアッセイ法による二本鎖切断(上段中性条件)、一本鎖切断(下段アルカリ条件)を検出. D)中性条件(二本鎖切断)で泳動したサンプルのコメットテールの長さを定量した(mean ± SD, n=100, *** p < 0.0001).



写真:左から 作見、中別府、大野、中西、續、古市

 

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