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研究キーワード抗病性動物、抵抗性遺伝子、 可溶型レセプター、intracellular immunization、遺伝子改変動物、精神神経疾患モデル動物研究テーマ1) 抗病性動物の開発(1990~ )
2) 精神神経疾患の発症病態モデル動物の開発と発病病理の解明(1995~)
1)オーエスキー病抵抗性動物の開発
オーエスキー病などの神経細胞内に潜伏感染を引き起こすヘルペスウイルス感染症などの難治性感染症に対する新しい制圧方法として、我々は抗病性動物の開発に着目し研究を進めてきた。我々はウイルスレセプターに着目し、オーエスキー病ウイルスのレセプターの1つであるブタネクチン-1の細胞外ドメインとヒトIgGのFc領域との可溶型キメラ分子を発現するトランスジェニックマウスを作製し、これらのマウスが、オーエスキー病ウイルスの攻撃に対して明らかに感染抵抗性を示し、且つ、一般状態の観察や病理組織学的解析からは、全く異常が認められないことを報告した(Ono et al., PNAS,2004)。さらに、これを応用して、フランスとの国際共同研究で家畜ブタを用いて可溶型ブタネクチン-1発現トランスジェニックピッグを作製し、子ブタにおける感染実験の結果、トランスジェニックピッグは感染抵抗性を示すことを証明した(未発表)。2)オーエスキー病ウイルス前初期蛋白IE180発現マウスの解析
オーエスキー病ウイルス(ADV)は、別名仮性狂犬病ウイルスとも呼ばれ、単純ヘルペスウイルスや水痘-帯状疱疹ウイルスと同じアルファヘルペスウイルスである。ADVはブタを宿主とするが、ブタ以外の動物に感染した場合、感染動物は掻痒を主徴とする神経症状を呈し急性経過で死亡することが知られている。ウイルス学研究者には、ヘルペスウイルス研究のモデルとして、また、神経生物学研究者には神経経路の“生きた”トレーサーとして使用されてきた。ADVの最も重要な転写調節因子であるIE180を発現するトランスジェニックマウスは、歩行中のよろめき、横転、全身の震え等の神経症状を呈した。また、このマウスの小脳は対照のマウスに比べ小さく、層構築が不規則で、一部分子層ならびに顆粒層の欠如が観察され、IE180の発現が小脳形成障害を引き起こすことが示された (Taharaguchi et al., Virology, 2003)。このトランスジェニックマウスにおいて、IE180が星状膠細胞および神経細胞で発現し、細胞移動と配列、細胞の分化、シナプス形成に影響すること、発現細胞に細胞死をもたらすことが示唆された (Tomioka et al., Eur. J. Neurosci., 2008)。また、スペインのUniversidad Pablo de Olavideとの国際共同研究で、このトランスジェニックマウスを用いて、小脳が学習機能において重要な役割に果たすことを証明した (Lopes-Ramos et al., Plos ONE, 2010)。さらに、IE180の発現はマウス精子の発生や機能に影響を及ぼし、繁殖障害をもたらすことが示された。(Tomioka et al., BBRC, 2013)。