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アサン医療センター・アサンがんセンター 視察報告

 2013.6.17 

九州連携臨床腫瘍学助教 在田 修二

平成25年2月20~21日、韓国ソウルのアサン(峨山)医療センター(Asan Medical Center: AMC)・アサンがんセンター(Asan Cancer Center: ACC)の視察に行ってきました。
当講座の馬場教授と、同センターおよびウルサン(蔚山)医科大学教授のKang先生が、日韓共同臨床試験SOS試験の両国研究事務局を担当していてかねてより交流があったことから実現したものです。同センターは九州がんプロ学生の海外研修派遣先を選定する際にも候補に挙がっていて、今回の訪問は、韓国のがん医療の実地および臨床研究の実施状況を視察し、研修内容の検討・打ち合わせを行うことが主な目的でした。


Google®マップ

2月20日10:30福岡発でソウル・インチョン(仁川)国際空港へ。1時間半で到着し東京と同じくらいの印象でした。出入国の手続きに時間はかかりましたが、近いですね!インチョン空港からソウル市内へは車で約1時間。ホテルへチェックインを済ませ、アサン医療センターへ向かいました。

アサン医療センターはソウル市内の東部にあり、周囲をハンガン(漢江)と広い緑地に囲まれています。病床数2,680、1日平均外来患者数10,449人(2012年)と、名実ともにアジア最大の病院です。病院は3棟の臨床棟や研究棟などからなる巨大なビル群で構成され、ハンガン沿いの西館・東館・新館のうち、西館770床を中心にアサンがんセンターとして集約的にがん診療を行なっています。

 
AMC 院内ツアー資料より
 
生命科学研究所より撮影。
左ががんセンター(ACC)の拠点である西館、右が東館

韓国では、全人口の約半数がソウル都市圏に在住すると言われるほど人口が一極集中しています。また高速鉄道を利用すれば南部からも数時間でソウル市内へ来ることができる地理、交通関係から、がん医療の分野でもソウル市内にある数施設のがんセンターが大部分の医療ニーズをまかなっているとのことです。ソウル大学付属病院、カトリック医科大学ソンモ(聖母)病院、アサン医療センター、ヨンセイ(延世)医科大学セブランス病院、サムスン(三星)ソウル病院が有名ですが、これらのがんセンターの中でも最大規模を誇るのがアサンがんセンターです。1施設で韓国全体のがん患者の10%程度を担っているというからその規模には驚くばかりです。

院内の様子は、最近日本でも広まっているように、ロビーは古い「病院」的な感覚を排した広くて清潔な造りで、病棟の造りも日本のそれとほぼ同一でした。案内板にハングルが書かれていなければ、日本の病院とほぼ変わりない印象でした。

 
ロビーの様子

地下街の様子 

しかし、地下街には、日本ではみられない光景が。博多駅地下街かと思うほど、衣料品店や日用品店、カフェ、飲食店が軒を連ねていて、病院関係者や患者家族などが多く訪れ、買い物や食事をしていました。市街地から少し離れたところにある立地も関係しているでしょうが、何より病院利用者の多さをものがたっています。

 

さて、ここで2日間の病院視察を担当してくれたRyu先生と合流。まず、臨床研究センターでRyu先生の担当する消化器がん部門のCRCチーフを務めるKangさんらのオフィスへうかがいました。消化器部門だけでもすぐに数えきれないほど多数の医師主導臨床試験(Investigator initiated trials; IIT)と企業主導臨床試験(Sponsor initiated trials; SIT)を抱えており、数名のCRCが試験の管理にあたっていました。

 


左から、在田、Ryu先生、奥がKangさん

左からRyu先生、馬場先生、右端がLeeさん

在籍するCRCが得た認証資格が多数掲示されています。

Official Tourの様子。 Leeさんに院内を案内して頂きました。

Oncological Emergencyの入り口。

 

次に、臨床試験センター渉外部門のLeeさんにより病院概況の説明。主に臨床試験部門についての紹介でした。病院全体では、1年間で総数1,000件を超える数の臨床試験が倫理審査を経て開始されており、介入試験も常時200件前後、国際共同試験も100件前後と、膨大な数の臨床試験が行われています。これらの管理や支援を行う部門として、第1相臨床試験を行うユニットや、基礎研究・Translational research(TR)を中心に行う部門を独立して有していることなどが紹介されました。Kang教授やRyu先生らの属するOncology部門、Gastroenterology部門は、院内でも特に多数の臨床研究を行なっている部門とのことでした。臨床試験の倫理審査期間は平均3週間とのことで、これは病院全体が臨床試験に関心を持って取り組まないと達成できない数字です。

LeeさんのOfficial Tour終了後、Ryu先生が病理部門、病棟、通院治療室などを案内してくれました。そのうちの一箇所。ビルの6Fなのですが、Phase I Centerの近くにOncological Emergencyがあります。院内には、一般救急、小児救急、腫瘍救急の3つのERがあります。


食事の風景。
前列左からRyu先生、Ryoo教授、Kang先生。
後列左から在田と馬場教授。
残念ながらKang教授はご多忙のためご一緒できませんでした。

 

夜は、腫瘍内科のメンバーと食事へ。日韓のがん臨床の現状と運営、臨床試験の運営状況などについて情報交換を行い、有意義な時間となりました。


他職種診察室

生命科学研究所

 

翌3月21日、午前中は再びRyu先生の案内で院内の見学。

外来診療部門で注目したのは、乳がん・食道がんについては、初診患者が治療前検査を終了したあと、初回治療方針の説明に腫瘍内科医・外科医・放射線治療医が同席する体制になっているという点でした。写真のように広い診察室がいくつかあり、各専門医からの説明を同時に聞くことが出来るようになっています。

最後に、生命科学研究所の、Ryu先生の所属するGastroenterology部門の研究ブースを訪問。病院としてはかなりの研究予算を投下しているそうなのですが、優秀なPhDを獲得したもののまだまだマンパワーが足りていない、とのことでした。

2日間にわたって案内をしてくれたRyu先生にお礼と再会の約束をしてAMCを後にしました。

夕方の飛行機までの間、市内の観光。ガイド役を引き受けてくれたJeongさんの案内でNソウルタワー、景福宮・光化門などを簡単に回りました。古代や戦時中の韓国の歴史、日本・北朝鮮との関係などについて市民目線の様々なお話を伺い、韓国の歴史の複雑さが垣間見えたように思いました。


Nソウルタワーからの景色。すぐそこはN38度線。

景福宮勤政殿。文禄・慶長の役の際に遺失し、1867年に再建されたもの。

 

 今回の視察を元に、アサン医療センターへの学生の研修派遣を検討中です。韓国の医療体制と臨床試験の実施体制についてつぶさに見る機会にできないか計画を練っていますので今後にご期待ください。

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