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【がんプロ大学院生レポート】Sabine Tejpar 先生を迎えて

 2013.5.12 

博士課程3年 中野 倫孝

 去る平成25年4月10日に私たちが所属している九州がんプロ養成基盤推進プランが主催する勉強会で、大腸がんの研究でご高名なSabine Tejpar先生のレクチャーを聞く機会がありました。私はがんプロの大学院生として参加し、とても刺激をうけたので報告いたします。

 Tejpar先生はベルギーのGasthuisberg大学のoncologistで、大腸がん研究の中でも特に、その個別化医療に関して臨床研究などを通じて先駆けて情報を発信されてきた方です。直近のCetuximab投与におけるバイオマーカーとしてのKRAS G13D型変異に関する報告は記憶に新しいですが、今までにもNEJM、Nature Review of Clinical Oncology、JCO、Lancet Oncologyなど各一流誌において大腸がんの層別化因子を中心に報告されております。
 このたびのレクチャーでは、抗EGFR抗体薬に関連した臨床試験から得られた知見を中心に癌のbiologyまで多岐にわたる内容を話していただきました。早期での腫瘍縮小が生存のサロゲートになりうるという、Early Tumor Shrinkageの考え方は、BOND試験、CRYSTAL試験、OPUS試験などに端を発しておりますが、その関係者から直接手ほどきを受けることができ、感慨もひとしおでした。また、大腸がんの層別化因子としてKRAS変異の有無は臨床化されておりますが、NRAS、BRAF、PIK3CAの変異部位によってもそのbiologyは異なるということ、さらには右半結腸と左半結腸ではその性質が異なる可能性があることも強調されており、癌の個別化医療はますます進んでいくであろうと実感しました。

 レクチャー後のディスカッション、懇親会は盛況で、私も直接お話を伺う機会がありました。大腸がんにおける発がんのメカニズムや、そのheterogeneityに関してご意見をいただきましたが、特に印象に残っているのは今後の臨床試験のあり方に関してです。先生が強調されていたのは①患者さんを数カ所の施設に集め均等なサービスを提供すること、②再生検を含めたサンプルを蓄積しておくこと、でした。これは、がんの個別化医療を進めていく上で非常に重要なことです。がんは大腸がんに限らず、少しずつそのサブタイプが明らかになってきました。固形がんでは、肺がんにおけるgefitinib、crizotinib、乳がん・胃がんにおけるtrastuzumabなどサプタイプに応じた個別化治療が可能となってきています。頻度の低いサブタイプを解析するには多くの症例がいりますから、患者さんに集まっていただくのは大事なことです。またこれからは、次世代シーケンサー、multiplexed PCRなどの技術がより容易にアクセスできるようになり、一度に大量の情報を解析することが可能となります。対象となるサンプルも手術標本やFFPEだけでなく、血清遊離DNA、血中循環腫瘍細胞まで解析可能となりました。これらのサンプルを治療前後、増悪時など時間経過を追って採取することで、治療奏効に関わるバイオマーカー、増悪に関わるバイオマーカーが明らかになり、かつそれに対する介入が可能となります。 あるいは、機器の精度が上がりごく少量のサンプルでも解析可能になれば、heterogeneityを持つがん細胞の中の、どの細胞が薬剤感受性で、どの細胞が耐性かそれぞれの特性がわかってくるはずです。このようにサンプルを複数の場所から継時的に採取し、将来を見据えて蓄積しておくことは非常に重要なことです。
 Sabine Tejpar先生のレクチャーは大変有意義でしたし、先生に触れることでがんプロ大学院生として、個別化医療を中心にがん治療を推進していくために考えるとても良い機会になりました。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。

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