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2016.2.5 東京大学 山本希美子先生 セミナー

 2016.1.29 

血管のメカノバイオロジー — 現在と未来 —
日時:2016 年 2 月 5 日(金)17:00-18:30
場所:九州大学病院キャンパス 基礎研究A棟2Fセミナー室
演者:東京大学 大学院医学系研究科 医用生体工学講座 システム生理学 山本 希美子 先生

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血管内面を一層に覆う内皮細胞は血流に起因する力学的刺激である流れずり応力(shearstress)をセンシングし、 その情報を細胞内部に伝達することで細胞応答を起こす。この細胞応答は血管の新生やリモデリング、血圧の調 節、血液の凝固・線溶活性などに深く関わっており、その異常は高血圧や血栓、動脈瘤、粥状動脈硬化といった血 管病の発生に繋がる。近年、shear stress は成熟内皮細胞だけでなく、内皮前駆細胞や胚性幹細胞にも影響を及ぼ し、それらの細胞を内皮細胞へ分化させることが示された。Shear stress のセンシング機構はまだ完全には解明さ れていないが、イオンチャネル、受容体、G 蛋白、接着分子、細胞骨格、カベオラ、細胞外マトリックスといった 様々な膜分子やミクロドメインを介して力学的刺激が細胞内の生化学的シグナルに変換され、その下流で多岐に 渡る情報伝達経路が活性化することが分かってきた。我々は培養内皮細胞に shear stress を負荷すると、細胞膜カ ベオラから内因性 ATP が細胞外へ放出され、細胞膜に発現する ATP 作動性カチオンチャネルである P2X4 を活性 化し、細胞内へ Ca2+が流入する反応が始まり、そこから Ca2+波が細胞全体に伝搬することを見出した。P2X4 遺伝 子を欠損させたマウスでは shear stress による Ca2+流入反応とそれに引き続いて起こる NO 産生反応が消失する。 そのため骨格筋の細動脈における血流増加に対する血管拡張反応が減弱し、高血圧が惹起される。また、慢性の血 流減少に伴う血管径の縮小反応(血管のリモデリング)も起こらなくなる。これらのことは Ca2+シグナリングを 介した shear stress のセンシング機構が生体における循環系の機能調節に重要な役割を果たすことを示している。 最近、細胞膜が shear stress に即座に応答して細胞膜脂質の相状態(lipid order)や細胞膜の流動性といった物理的 性質を変化させ、これが膜分子の活性化に影響を及ぼすこと、すなわち、膜自体がメカノセンサーとして働く可能 性が示された。こうした血管メカノバイオロジー研究の成果は心臓や血管など器官形成の仕組みの理解や血流依 存性に発生する血管病の病態解明と新しい治療法の開発に貢献すると思われる。

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