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セミナー情報

2015.3.18 慶応大学仲嶋一範先生セミナー「動く細胞が見せる大脳皮質層形成のメカニズム」 

日時:2015年3月18日(水)17:30-19:00

場所: 九州大学病院キャンパス 基礎研究A棟1Fセミナー室 

演者: 慶應義塾大学医学部解剖学教室 仲嶋一範 先生

 大脳皮質の神経細胞は、脳室面近くで誕生し、辺縁帯直下へと移動した後、誕生時期をほぼ共通にする細胞同士が集合して、脳表面に平行な6 層からなる多層構造(皮質板)を形成する。この際、遅生まれの神経細胞は早生まれの細胞を乗り越えて辺縁帯直下で移動を終えるため、最終的にinside-out様式で層構造が形成される。辺縁帯に存在するCajal Retzius細胞から細胞外に分泌されるリーリンが欠損するリーラーマウスでは、層構造が全体として逆転するという大きな表現型を呈するため、1995年にリーリンが発見されて以来多くの研究者の興味を引き、様々な生化学的経路が報告されてきた。しかしながら、リーリン発見から長年経過した現在でも、その生物学的な機能、すなわち移動神経細胞に対していかなる変化を引き起こすことによって正常な層形成を実現するのかは未解決のままである。

 リーリンは、脳室面から移動してきた細胞の「移動停止シグナル」と考えるのが一般的であったが、最近我々は、リーリンがin vivoにおいて細胞の凝集を誘導することを見いだした。興味深いことに、細胞はリーリンが異所的に局在する部分に向かって放射状に配列するとともに、樹状突起を中心部に向かって発達させること、さらに、その中心部(リーリン存在部位)からは細胞体が排除されてしまうことを見いだした。また、後輩の神経細胞は先輩の神経細胞を乗り越えて中心部近くまで進入して停止することもわかった。すなわち、その様子は、辺縁帯におけるリーリンと、その直下で移動を終える正常細胞の挙動との関係に酷似していた。この結果は、リーリンは単純な「移動停止シグナル」ではないことを示唆するとともに、辺縁帯直下におけるinside-out様式での細胞配置や樹状突起形成を引き起こすためにはリーリンという単一分子の作用で十分であり、脳表面の他の構造は不要であることを強く示唆する。そこで次に、リーリンが本来産生される辺縁帯の直下において同様の細胞凝集がみられるか検討した。その結果、移動を終えたばかりの未熟な神経細胞が皮質板最表層に帯状に密に配列していることを見いだし、primitive cortical zone (PCZ)と命名した。放射状グリア線維を足場として移動(locomotion)してきた細胞は、先導突起の先端が辺縁帯に到達すると、先端部をアンカリングさせて突起を短縮し細胞体を一気に皮質板最表層にまで持ち上げるterminal translocationと呼ばれる移動様式に変換するが、我々は、ちょうどPCZの直下に到達した細胞が移動様式を変換し、terminal translocationを起こしてPCZ内を通過していくことを見いだした。そして、このterminal translocationが正常に起こることが、最終的なinside-out様式での層形成にとって極めて重要であることを明らかにした。さらに、この移動様式の変換をリーリンが制御しており、integrinαβを細胞内から活性化し、terminal translocationを引き起こすことがわかってきた。

 本セミナーでは、リーリンの機能を中心に大脳皮質の構造が作られるしくみについて議論したい。

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